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君のためのサンタ
真面目なのかギャグなのか。





クリスマスなんて楽しむつもりはない。
そう思っていても、街はクリスマスツリーやリースが飾られ、イルミネーションが光っていたりする。
嫌でもクリスマスの存在を認識させられる。
いや、でも部屋にいたところで、クリスマスの存在を認識させられるのかもしれない。

「もうすぐクリスマスだねー、シンジ君」

こんなことを言う奴が隣にいる限りは。

「ああ、そうだね」

別に楽しみじゃないし、タンスの角に小指ぶつけると痛いよね、って言われたくらいの、素っ気ない返事だな、と自分でもわかった。
でも、君と過ごせるなら、少し楽しみかもしれないという気持ちもなくはないかもしれない。

「いい子にしてたらサンタさんが来るんだよね?」
「来ないよ。僕のところには来ない。もうずっと来てないから」

僕はいい子じゃないからか、いい子であっても僕のところには来ないのか。
どっちでもいいけど、サンタがいないのなら、どんな理由であれ、僕のところには来ないんだ。
今更サンタが来るのを心待ちにする歳でもないし。

「じゃあ、僕がシンジ君のサンタになってあげるよ」
「へ?」

また渚が突飛でもないことを言い出した。

「ちょうど空も飛べるし、鍵も開けられるしね。僕はサンタになるために生まれてきたのかもしれない!」
「ああ、そう?」

その使命はよくわからない。

「じゃあ、クリスマスはプレゼント配りに行くから! 良い子は早く寝るんだよ! あ、靴下も忘れずにね!」
「う、うん……」

今年の冬は、渚はサンタになるらしい。



どうしてこうなったんだろう。
もうすぐクリスマス・イブがクリスマスになる。
サンタの一番忙しい夜。

「渚、来るのかな」

本当はサンタなんてどうでもいいからクリスマスはずっと一緒に過ごしたかったって言ったら何か変わったのかな。
あの頃も正直にクリスマスプレゼントが欲しいって言ったら何か変わったのかな。
変わらないな、多分。
一人で自嘲気味に笑う。
きっと何も変わらなかったし、今でも何も変わってない。

「もう寝ようかな」



「あ、いつの間にか寝ちゃってたな……」

ぼんやりと窓の方を眺めると、もう随分日が高く昇っているみたいだった。

「起きないと……」

体を起こそうとしたけれど、起き上がれなかった。
体が重い。

「な、渚……?」

僕の体はがっちり渚に抱きしめられていた。

「何で一緒に寝てんの?」

勝手にベッドを使っている渚に半分呆れつつ、本当にプレゼントを持ってきてくれたのかとちょっと期待している自分がいた。
ちらっと横目で枕元に置いて置いておいた靴下を確認する。

「……プレゼント、ないし」

っていうか靴下自体ないんだけど。
まさかプレゼントは僕だよオチ?
有り得る。渚なら。
それなら昨日からずっと僕といてくれれば良かったのに。
渚が寝てる今ならもうちょっと素直でいられる気もするけど、そろそろ起こすか。

「おーい、渚」
「んー、あ、おはよう、シンジ君」

まだ半分眠っていて焦点の定まらない瞳が可愛らしい。
だからって甘やかすわけにはいかない。言いたいことは山ほどあるんだから。

「おはよう。で、君は何で僕のベッドを勝手に使ってるのさ?」
「寒いから」
「そう。で、本当にプレゼントは持ってきたの?」
「もちろん。そのために来たからね。シンジ君を襲おうかとも考えたけど、ちゃんと使命を思い出して止めたよ」
「それは良かったよ、思い止まってくれて」

正直サンタに教われるという可能性は考えていなかった。
笑えないから止めてほしい。

「でもプレゼント見当たらないけど」
「ああ、うん。シンジ君の用意した靴下小さいからプレゼント入らなくてさー」
「そもそも靴下自体ないけど……まさか無理やり入れようとして破いたりしてないだろうな?」
「ああ、それは大丈夫。とりあえずシンジ君の靴下は僕が履いといたから!」
「何やってんだ!!」

自慢げに僕の靴下を履いている足を見せびらかしてもらっても困る。

「プレゼントは僕、みたいな?」
「はぁー、結局そういうオチか……」
「何かがっかりしてない? 僕はシンジ君の物なんだよ?」
「はいはい。嬉しい嬉しい」
「何か適当じゃない? あともう一つあるんだけど」
「まだ何かあるの?」
「どうせロクでもないものだろ、って目してる」
「そりゃあね」

渚といると期待するのは疲れたって気分になるよ。
まぁ、嫌な気はしないんだけど。

「これ、碇司令から」
「えっ、父さん……? 何で……?」
「パイロットの子供達にって、ただのお菓子の詰め合わせだけどねー」
「いや、ありがとう……」何となくプレゼントを貰えなかった頃の僕も救われたかのような錯覚。

僕はそんなに単純じゃないんだけれど。

「シンジ君は? プレゼントくれないの? プレゼントはシンジ君オチとかどう?」
「わっ、ちょっ……」

急に渚が僕の顔を覗き込む。
キスされると思った時には唇が重なっていた。

「ん……」

あったかい。
それに気持ちいい。
もっと奥まで渚と繋がりたい。
無意識に渚の背中に手が回る。

「は……」
「あは、シンジ君も僕が欲しいって思ってた?」
「う、うるさいな……」

渚の手が僕のシャツの中に滑り込んでくる。

「ちょっと……何してんのさ……くすぐったい」
「ねぇ、プレゼントはシンジ君でいいよ」
「僕はプレゼントじゃない」
「えー、こんなに盛り上がってるのに」

だから尚更あげられないんだよ。
今僕をあげるなんて言ったらどうなるかわかりきっている。

「じゃあ、渚には君が今履いているその靴下あげるよ」
「靴下ごと返品って意味じゃないよね!?」

こんなやりとりでも渚となら楽しいだなんて。
渚がいるならクリスマスも悪くないかもしれない。















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あの碇指令からプレゼントを獲得する渚は陰の努力人。

H23.12.31



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